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テレビとお別れする最後の晩に、古いブラウン管が映し出す福島県飯舘村の風景を食い入るように見つめていた。大山支援村の活動を通して出会った飯舘村の人びと、そしてあの美しい村を、忘れずにいつまでも記憶に留めていかなくては。そう胸の内に繰り返しながら。
○番組HP> NHKスペシャル「飯舘村~人間と放射能の記録~」 2011年7月23日(土) 午後9時00分~10時13分 総合テレビ 5月に大山支援村の仲間と飯舘村を訪ねる機会を得た。また、ここ鴨川にも、飯舘村から二組のご夫婦をお迎えする機会があった。私にとって、とても大きな意味のある出会いとなった若い二人のことを少し書きたいと思う。 (6月11日・鴨川の我が家にて) 菅野さんは、日本では珍しい黒毛和牛の山地放牧という飼育方法に取り組んできた。山野に生える草だけで育てた牛は、霜降りとは対極の赤身が特徴の肉となる。それをソーセージやローストビーフなどに加工して販売しようという商品開発の試みも動き始めたばかりだった。しかし村は全村避難に追い込まれ、牧園も休業となった。 このポストカードは、菅野さんが万感の思いを込めて立ち上げた「つなげるつながる さくらプロジェクト」の一環として製作された。 つなげるつながる さくらプロジェクト - 菅野牧園blogより 「エネルギーやこれからの私たちの社会について、それぞれが考えをこのポストカードに書き添えて大切な人へメッセージとして送り届けてもらえたら。そうやって人びとの思いをつなげていけたら」と菅野さんは言う。その願いに応えていきたい。 菅野さんの「東電のせいだとか政府のせいだとか恨み言を抱えて生きていきたくはない。前を向いて歩いていきたい」という言葉に会場から大きな拍手がわいた。 糾弾口調よりも前向きな言葉こそを聞きたい。応援したい。聴衆の心情はよくわかる。私も同じだ。けれどその「前向きな」「明るい」言葉のうしろには、たくさんの語られない言葉や言葉にならない言葉が詰まっているはずだ。前夜、市内であった別のイベントで横浜から集った大勢の参加者を前に菅野さんが語った言葉は、私にはとても重たい宿題を突きつけられるものだった。 「この原発事故は、私たち全員が加害者です。そして全員が被害者。これからどんな社会を作って行くのか、ひとりひとりが考えなくては」 突然に降って湧いた理不尽な災難の、菅野さんたちは絶対的な被害者ではないか。その人が「私たち全員が加害者」と、噛みしめるように自分に言い聞かせるように語る、その言葉の重みを知らなければならない。そう強く思った。 「ずっとウソだった」「騙されていた」なんて恥ずかしくて言えない。ウソに騙されていたのなら、まだマシだ。少なくとも何らかの情報を求めて、得たそれを真実とする判断を自分自身で下したのだから。でもそうだったろうか。それどころか騙される以前の話、無関心もしくは常にどこか他人事ではなかったか。 それに原発の問題は安全かどうかだけじゃない。「トイレのないマンション」に喩えられるような、放射性廃棄物の処理と永遠に近い長期に渡る保管の問題。受け入れへの賛否に地域を分断しながら原発が過疎のまちむらに札ビラ切ってやってくる、そんな社会構造そのものに立脚する根の深い問題....。けれど常にどこか他人事だったと告白したい。 2日間ご一緒しながら、たくさんのことを語り合った。牧畜への菅野さんの思い入れに、私はとても共感した。 耕作放棄地や手入れされていない植林地に牛を放てば、牛はどんどん藪に分け入ってきれいに開墾してくれるという。私も同じようなことをずっと考えてきた。―—草という人間が食べられないものを家畜が食べて育ち、その恵みを肉や乳や卵や堆肥という形で人間がいただく。里山を家畜と共に守り育てる、有畜循環型農業。一次産品として卸市場に出荷しておしまいではなく、自ら手を加えたものを消費者にダイレクトに提供していく、主体的・自立的農業。 我が家のニワトリを見ていて、つくづく思う。ニワトリは青草が大好きだ。せっせと草の根元近くまでついばんで、ちょっとした草むらなら、あっと言う間にきれいにしてしまう。土や虫をついばむのも大好きだ。一日中歩き回って忙しく脚で土をほじくり返している。鳥インフルエンザウイルスの侵入予防にと、窓もない鶏舎の中で、何段にも重ねた狭いケージに閉じ込めて輸入穀物飼料を与え続ける大規模養鶏が、いかにニワトリという生物種の生態からかけ離れた飼い方かがよくわかる。 けれどもちろんそれは、いまの玉子の価格と生産量を維持するためには必要な飼い方で、それは消費者の選択結果でもあるのだ。「安心安全を」「低価格を」と、ある意味、相反する条件を世間は同時に求めながら、そのはざまで農の現場の実相が忘れられている気がしてならない。 菅野さんには「日本に赤身の肉の美味しさを味わう文化を作っていきたい」という夢がある。「たくさん食べなくていい。特別な日に味わう食べ物にしてもらえたら」と願っている。噛みしめるほどに肉の旨味が口中に広がる赤身肉の魅力は、ブラジル生活で向こうの牛肉の味を知った私にとってもなじみが深い。かたいけれど旨いのだ。 サシが極限にまで入ったとろけるような和牛肉の高級さを追求するひとつの食文化があって、かたやもうひとつ「肉食は反エコロジー」とみなす思想文化もある。「牛肉を1キロ作るのに10キロの穀物が必要」、そんな解説に触れたことのある人も多いだろう。「だから肉を食べるのはやめよう/控えよう」と。しかしどちらにしても何かが違うと、菅野さんは違和感のようなものを抱き続けてきたそうだ。 高級霜降り牛をもてはやす風潮と肉食を否定する声とのはざまで、疲弊する農村・藪と化していく里山の実相がすっぽりと抜け落ちていく。模索する農家の喜怒哀楽が見えない存在となっていく。どちらでもない第三の道が逆に遠のいて行く。そんな危機感ならば私にもよくわかる。...いや、わかる気がする。原発の問題も同じだ。推進せよ/絶対反対だ、大きな声のはざまで私たちが見えずにいることはないだろうか。 「その両者の間をつないでいきたいんです」と菅野さんは言っていた。異なる主張の間を、都市と農村の間を、世代から世代へと...。そして、「農家のプライドというのでしょうかね」と言いかけて、ぐっと歯を食いしばり天を仰いだ。こらえた涙が目から溢れ出て、絞り出すように言った。 「次の日に村を離れて避難するという人が、田んぼの畦の草刈りをしていたんです。きれいにして行きたかったんでしょうね...」 プライドと愛惜と。 哀しみ、怒り...。 5月下旬に私が訪ねた時は、村は遅い春の訪れに緑輝き、田んぼの水路はサラサラと水をたたえて流れていた。何もかもが美しかった。青々とした牧草地に風が渡り、「ああここに寝転がったら、どんなに気持ちがいいだろう」と思った。その地表近くの線量は、持って行った簡易線量計で10μSv/h前後をさしていた。この美しい風景と、この数字と、ギャップが意味するものが、どうしても受け止められずに戸惑ったことが生々しく記憶に蘇る。 耕すことの許されない田んぼの畦の草を黙々と刈る人がいる。その姿を脳裏に思い描くたび、泣けてきて仕方がない。その人の思いのほんの一片かもしれないけれど、わかる気がする。わかりたいと思う。 「私の代で村へ戻れることはもうないでしょう」。そう菅野さんは覚悟している。「けれど私たちの子どもや孫たちが農業がやりたいと希望し、いつか村へ戻れたときに、満開の桜が彼らを迎えてくれたなら」と静かに語っていた。 二人は、はじめての赤ちゃんの誕生を11月に迎える。新しい命に、よりよい未来を私たちは手渡して行かなくてはならない。 ○「つなげるつながる さくらプロジェクト」への支援方法はこちらに つなげるつながる さくらプロジェクト - 菅野牧園blog (写真:さとみ)
by hyakuishou
| 2011-07-28 22:11
| よの中・ひとの中
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